戦場の都市伝説 石井 光太 著

戦場の都市伝説 (幻冬舎新書)戦場の都市伝説
幻冬舎新書
(2012/09/28)
石井 光太
★★★☆☆
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戦争や内戦が現在も続く地域や、紛争の傷跡が今も残る場所では、怪談や都市伝説が数多く生み出される。人間の死体で肥え太った「ビクトリア湖の巨大魚」、いくら撃っても倒れない「不死身の自爆テロリスト」、人間の脂から作られた「ナチスの石鹸」など、これらを紐解いてみると、その裏には虐殺の事実や、不安や恐怖で極限状態にある人間の姿がある。このような都市伝説の背景を、紛争地域を渡り歩いたノンフィクションライターが解き明かす。

本作では全18話の都市伝説が語られ、ざっくりとした背景の説明とともに、元となった出来事や状況を明らかにしていく。実際に陰惨な出来事があった地域や、常に生命の危険にさらされている人々にとって、それらの都市伝説は極めて真実味のあるリアルな話であると思う。また、本著者による解説から、そのような都市伝説が生まれる理由もすっと腑に落ちる。

しかし、もちろんこの著者の分析は一つの物語であり、研究と言えるほどのクオリティはないことは頭に入れておくべきだと思う。とは言え、このような極端な状況で生まれる都市伝説とその大元を見ることで、我々が普段耳にする日本の都市伝説についても理解が深まる。

注:都市伝説とは、「口承される噂話のうち、現代発祥のもので、根拠が曖昧・不明であるもの」。【大辞林】


以下では、私が興味を持った話や知見について述べています。

第4話『遺体輸出―メキシコ麻薬戦争』


アメリカ―メキシコ国境の税関職員は、ある日不審な点に気付いた。最近、メキシコから運ばれてくるアメリカ人の遺体が急激に増えていたのである。その遺体の行方を調査したところ、遺体は一つの特定の場所に送られていることがわかった。不審に思った税関の担当者らは、チームを組んでその場所を探索してみた。するとそこには、遺体を切り裂き、そこから大量のコカインを取り出す男達の姿があった。

この都市伝説の背景としては、アメリカで続く深刻な麻薬汚染とメキシコでの麻薬戦争がある。これらの麻薬は南米コロンビアの巨大な犯罪組織から来ているが、近年麻薬の通過地域としてのメキシコで、警察などと犯罪組織との間で抗争が激化している。その抗争は凄まじく、
たとえば2011年の1年だけで麻薬がらみの殺人件数は1万2千件にも上ったとされ、このうち約600体が頭部を切断され、千体以上に拷問の跡【時事通信2012年1月3日】。
のような最近のニュースにもなっている。こういった都市伝説は、犯罪組織の残酷さからすれば妙に納得できる話ではあるが、もちろん出所のはっきりしない都市伝説である。

第5話『ナチスの石鹸―ホロコースト』


ナチスは虐殺していたユダヤ人の死体から脂を取り石鹸にしていた。
この話は有名だが、私自身は事実として聞いた記憶がある。しかし、このような事実はなく、これも都市伝説だという。【ウィキペディア:人間石鹸

奇妙なコラム2 国別お化けの現れ方


文化圏の違いによる、お化けの違いを述べた話がちょっと面白かった。

日本では、幽霊として死んだ者がそのままの姿で現れることが多い。しかし、東南アジアではもっとコミカルで、「死んだ子供たちが手をつないで屋根で踊っていた」など、踊ったり、飛んだりと人間ではしない行動を取ることが多いという。これは、東南アジアの精霊信仰と強く関わりがあるらしい。東南アジアでは、「ピー」という木や水やココナッツなどの精霊に囲まれ、死んだ人間も妖精となって現れるとしているため、著しく日本の幽霊とは異なる。

また、中東では「ジン」と呼ばれる妖怪となって故人は現れる。ジンは幽霊というより、「小さい人」「黒い人」のような精霊と妖怪の間のような存在とのことで、妖怪ほど形は固定しておらず、妖精ほど奇抜性はないらしい。

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