粘膜黙示録 著者:飴村行 出版:文春文庫 発行:2016/02/10 評価:★★★☆☆ Amazonで詳細を見る |
『粘膜黙示録』は、日本ホラー大賞長編賞、日本推理作家協会賞受賞作家の飴村行による初めてのエッセイ。
本著者の大学中退から小説家デビューまでの10年以上にわたる、不遇の時代を綴ったコメディタッチのエッセイ集。
第一回目の『革命前夜』はWEBで読めます。【本の話WEB:革命のはらわたを探りあてた!? 粘膜作家が振り返る暗黒時代】
粘膜黙示録
第1回 革命前夜
俺もあの位いい女と好き放題ヤリたいと思ったという。そんな出来事が、面倒臭い感じにグタグタと描かれる。
第2回 男のプライド
飴村氏によると、一般的な会社には必ず「はぐれ人」と「肉玉」と呼ばれる人種がいるという。
「はぐれ人」は、窓際族でありながら横柄で、上司や社員の悪口を延々と述べ、会社を辞めると言いながらもダラダラと会社に居座り、自身を「一匹狼」と称する人々である。また、他の社員には使えねえ認定されているという。
「肉玉」は、「はぐれ人」を最も辛辣に罵倒する者達で、彼らは共通に禿げた肥満体で、自己の性遍歴を自慢し、社内のヤリたい女子社員の名を嬉しそうに列挙するという。
また工場勤務時代に出会った「クシャおじさん」という、どう見ても60代にしか見えない40代の似非インテリについても語り、誕生日に栄養ドリンクを贈られたことで感動した恥かしいエピソードが綴られる。
第3回 決断
第4回 常識
そこから、作家による「常識」についての深い洞察が語られると思いきや、続くのは派遣工時代に働いていた工場のヤバいおっさん達のお話である。
センメルヴェイス・イグナーツ:19世紀のハンガリーの医師で、院内感染予防の先駆者とされ、産後の産褥熱と呼ばれる感染症を予防する方法として医師の術前のカルキによる手洗いを提唱した。センメルヴェイスは啓蒙のため数々の病院をまわるが抵抗された上、医師の集団にリンチされ死亡した。【ウィキペディア:センメルヴェイス・イグナーツ】
第5回 地獄
その派遣工時代、月に数回ほど夜中に目が覚めることがあったという。そしてそのとき思わず漏れる、
いや、もう終わっているしという自分の呟きは、筆舌に尽くし難い絶望を飴村氏に与えたとのこと。
また当時に合コンに誘われた時の話も語っており、そこで飴村氏は女が友達の妊娠の話をしたときに、
きっと、エイリアンみたいな元気な赤ちゃんが生まれるよと言って凄まじい反感を買ったという。
アルチュール・ランボオ:早熟の天才として知られた、激烈な言葉でデカダントな詩作を著した19世紀のフランスの詩人。また『地獄の季節』は、彼が18歳のときの作品である。
第6回 笑い
それは、飴村氏が風紀委員を名乗るオッサン社員にネチネチと説教されていた時に、女子社員がそれに気づかずに、その風紀委員をバカ扱いしているのを2人して聞いてしまった話で、そのとき風紀委員は思わず「なにこれ……」と呟いたという。
それを聞いた飴村氏は吹き出してしまい、トイレに駆け込み、笑い過ぎて掌半分のゲロを吐いたとのこと。
第7回 恐怖
息子が大学を中退し悶々としていた母親も、息子が人殺しにならないのであれば、と何故か安心したという話。
第8回 大志ヲ抱ケ
その男は田野と言い、40歳を過ぎているにもかかわらず女性と交際したことがなく、小太りで愚鈍な男だった。にもかかわらず、自分は今までいいことがなかったから、自分の幸福はまとまった形でおとずれる、そしてその幸福で「18歳から22歳の、健康な処女と結婚できる」と本気で思っていた男だったという。
第9回 不意討ち
第10回 神
第11回 世界の終り
「世界の終り」を経験したことがある。と仰々しく始まるが、内容は派遣工時代の工場が閉鎖し、暴動が起こった話。
第12回 約束
感想
巷に溢れるロクデナシ共を、ちょっと客観的に物事を見れる下衆野郎が乗りに乗った筆で書き散らした雑文。それが本作『粘膜黙示録』である。ただ本当にこういう人たちってたくさんいるし、ここで描かれる飴村氏の小心者的な行動も自分にないとも言えない。そして飴村氏の下衆い考えも、正直あるある話かなと思ってしまう。
でもまあ、みんなそうだ、人間なんて下衆ばっかりだ、そう思って今日もガンバリマス。
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