或るろくでなしの死 平山 夢明 著

或るろくでなしの死或るろくでなしの死
(2011/12/22)
平山 夢明
★★★★☆
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都市伝説的ホラー『或るはぐれ者の死』、近未来SF『或る嫌われ者の死』、醜い人間物語を描いた『或るごくつぶしの死』、ある家族の悲劇の物語『或る愛情の死』、地獄に生きる2人の奇妙な情の話『或るろくでなしの死』、ろくでなし2人がグロテスクにひき潰される『或る英雄の死』、特殊な人生を生きる男の『或るからっぽの死』から成る、スペクトルは広いが、間口は狭いように思える短編集。

すべてが極端に底辺、若しくは絶望の淵にある人間が登場するが、それぞれがリアルかつ普遍的で、人間の醜さをこれでもかというほど装飾的に描く。

以下はネタばれ注意

或るはぐれ者の死

★★★☆☆
本作の主人公JJは、「人畜無害」な浮浪者である。人にも優しかったが、何より自分に優しすぎ、路上生活者となった。

JJはある日、道路の中央にあった轢き潰された服の塊に注意を惹かれる。その塊を巡る、コロンブスの卵的なアイデアの短編ホラー。


誰も気に留めない道路中央に残された何かの残骸。私も昔、道路にへばり付いた猫の死骸を見たことがあります。元は立体的であった猫が、写実性を残したまま1cmほどの平面的な存在になっていて、悪趣味なシュールレアリズムの絵画のようでした。

さらに恐ろしい気持ちになるのは、そのような残骸には形成過程があり、形成途中のそれを目にしている無関心な人間がたくさんいるということです。

或る嫌われ者の死

★★☆☆☆
日本人が「消えゆく民族」となりつつある近未来。死に瀕した「純血種」の日本人と、日本人を母に持つ消防隊員の対話を通して、想像可能な日本人の1つの未来を具体化していくSF短編。

或るごくつぶしの死

★★★★☆
上京し予備校に通う主人公は、「夜中に這いながら寄ってくるアニキと人の躰を膝下から斜めに見て、にやにや笑う田舎者の視線」から逃げだしてきた幼馴染の小海と出会う。

小海とアニキとの関係に気付いた主人公は、彼女の緩さを察知して自らも「性処理道具」として小海を扱うようになる。彼女も彼女で、男を縛りつけようと故意に妊娠し、堕ろすと言いながらもついには産んでしまう。

その事実に恐れ慄きながらも、ずるずると関係を続ける主人公、そしてその赤ん坊(作品中では「ぶつ」と呼ばれる)を突きつけ男を脅し追い詰める小海。

一見極端な人間達の話に見えるが、実は普遍的な自堕落な男と自己破壊的に復讐を遂げる女の物語。


これを読んだ方は、底辺の極端な男と女の話と思われるかもしれません。しかし私には、この男の自堕落さが男というものの本質のように思えてなりませんし、従順を装いながらも急変する女の言動や、プライドを著しく傷つけられた女の破壊衝動がリアルに描かれているように思いました。

この短編の最後は次の一文で締めくくられますが、これが本著者の底知れないところです。
こうして俺は二十歳で死に、八十で埋められるのを待つ身となった。

或る愛情の死

★★★☆☆
障害を持つ子の世話に全てを捧げる母親。しかしその家族は、事故に遭いその子を亡くす。母親の精神は徐々に破壊され、家庭は狂気の様相を呈し始める・・・。

自己愛と自己犠牲が表裏一体であることを狂気に包んで提示し、全てが破壊された跡に残った愛情を感動的に描いたある家族の物語。

或るろくでなしの死

★★★★☆
殺し屋である主人公は、仕事の現場を少女に見られるという過ちを犯す。年端もいかぬ少女に脅されるはめになった主人公だったが、鬼畜な人間達に翻弄される少女に触れ、その冷徹な精神にある種の情が芽生えようになる・・・。

この世の地獄に生きる、不器用な2人の奇妙な情の話。


ダイナー』的な世界観とキャラクターを持つ作品。その世界観は地獄だが、登場人物はパンキッシュで理知的。発する台詞が独特で、平山夢明の作品でしかお目にかかれない。でも拷問シーンにパクリがあったのが残念。

或る英雄の死

★★★☆☆
ろくでなしの男2人の話。異様に残虐で理不尽な兄弟が、飴村行の小説を思い起こさせる。

或るからっぽの死

★★★☆☆
自分に興味がない人間の姿が見えないという特殊な能力を持った男の話。先に崖しかなく、落ちていくだけというラブロマンス。


【悪いことがあれば、良いこともある】などという幻想は通用しない、救いのない話。

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