お初の繭 角川ホラー文庫 (2012/09/25) 一路 晃司 ★★★☆☆ 商品詳細を見る |
明治時代の女工をモデルに、隔絶された製糸工場の淫靡な恐怖を描く、第17回日本ホラー小説大賞大賞受賞作。
あらすじ
12歳になったお初は、貧しい家族のため製糸工場に働きに出る。その厳しい労働のために、働きに出た娘達のほとんどが帰ってこないことをお初たちは知っている。僅かな希望を持って、友人達と共に村を発つお初達。工場に着いて早々の身体検査、それは全身を撫でられ、抓まれ、嗅がれる、奇妙なものであったが、予想に反してその後の生活は快適だった。しかしそれも、製糸部と養蚕部への配属が決まるその日までだった。
お初を含めた大部分の娘達は、養蚕部へと配属される一方、月の物を経験した大人びた友人達は製糸部へと配属された。製糸部へと配属された友人の常軌を逸した変わりぶりに、いまだ仕事の始まらない養蚕部のお初は不安を高めていく。
ついに養蚕部の仕事が開始され、そのときお初が見た衝撃の光景は・・・。
感想
ストーリーや世界観、キャラクターなどの物語としての完成度は高い。また、ですます調の小学生の作文のような文体、「ぺけ糸」や「フルチンスキー」のような稚拙な言葉や名前の選択が、卑猥さや恐怖感を希釈し何か言葉にしづらい独特の雰囲気を感じさせる。ホラー大賞時の選評について
一方、このホラー大賞作品としての選評を見ると、以下のような好意的な評が全てである。【web KADOKAWA - 角川書店・角川グループ:お初の繭|一路晃司】明治の紡績工場に絡んだ都市伝説――懐かしさもあり、ドラマを満喫できる。(荒俣 宏氏)
日本的ゴシック・ホラーとしての高い完成度。大賞の風格充分。新たな才能の登場に拍手を送りたい。(貴志祐介氏)
読み終えて興奮が止まなかった。価値観のぐらつきも感じた。この賞の選考に関わってすでに十七回、はじめて覚えた揺らぎかもしれない。(高橋克彦氏)
蚕のあのむっとするにおいと生あたたかい空気――見事だ。(林真理子氏)
確かに本作が醸し出す雰囲気に独特さがあり、それは誉めてしかるべきものと考えられるが、ラストに至る惨劇の内実は早々に想像できるし、そのシーンも想像を超えるものは何一つない。
これらを考え合わせると、一小説家としてのデビュー作としては高品質かもしれないが、ホラー大賞作家としては役不足の感がある。
飴村行のヤバい巻末解説について
そして、この本の中で一番面白かったのは、飴村行の解説だったというのがまた痛いところです。飴村行は、目の前で自動車に轢かれた弟を見た同級生の女子が、気が違ったかのように笑い続けるのを見た、という小学校6年のときの出来事を解説にぶっこんでいます。
そして、その女子が笑った理由がこの本を読んでわかったといい、それはその子が「姉」であるまえに「乙女」だったからだと主張します。
本気で言っているのかは定かではありませんが、その主張を支える論理の狂気さは恐るべきもので、最後には
なぜなら乙女が最も望むものは栄光であり、それは最も忌み嫌うもの、つまり恥の裏返しにほかならないからだ。と高らかに宣言します。
もちろん、飴村行も自分の話ばかりをしているわけではなく、『お初の繭』の解説もしています。それもかなり面白いので、この解説のためにこの本を読む価値があるといっても過言ではありません。