惨劇アルバム 小林泰三 著

惨劇アルバム
光文社文庫
(2012/05/10)
小林泰三
★★★☆☆
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『惨劇アルバム』は、SF・ホラー・推理小説作家、小林泰三のスプラッタ風味のブラックコメディ集。ミステリー要素もあり。

家族の物語を母が娘に語るという体裁で進行する作品で、幸福な女性の穏やかな一人称で幕開け、無邪気な子供時代の回想が続くと思いきや、以降はスプラッタかつ気が触れたクレイジーワールドが永遠と続く物語集。

あらすじ

序章

★★★☆☆
不幸はその大小によらず人を支配する。どんなに小さな悩みであっても、それは人の思考を支配し、幸福から遠ざける。
一滴の墨汁が風呂桶一杯の水に広がるように

しかし女は思う、自分の人生には幸福しかなかったと。そして結婚を目の前にし、これからも幸福しかないと思う。その幸福な人生を思い返すように、女はアルバムの最初のページを開いた…。

幸福な眺望

★★☆☆☆
女・美咲の幼稚園のときの写真。5歳から10歳位の子供達が山登りをしているその写真を見ながら、美咲はぼんやりと曖昧な記憶を思い起こしていく。

それは、美咲が友達と近くの山に遊びに行った時の写真だった。男の子が山の頂上を超えた湖に行こうと言いだし、皆で向かったのだった。

そのときの記憶をたどり始めた美咲は、そこで自分が高所から落下したことを思い出す。そしてその記憶の先は、自分が死亡したことについて言い争う大人たちのイメージだった…。

清浄な心象

★★★★☆
完璧な子供を作りたいの
女の言葉で物語は始まる。

夫である迩がその言葉の意味を問うと、それはどうやら人工的な化学物質に汚染されていない環境で身ごもり、産んだ子を意味しているようだった。そして女は人里離れた場所に家を買えと要求する。会社勤めの迩はもちろん抵抗したが、それを聞くような女ではなかった。

2、3時間しか睡眠を取れない生活を続けていた迩は、その日も深夜によろよろと家に戻った。そんな迩に、女は「同意書」を迩に突きつけ、書けと言う。その「同意書」は、妊娠中絶の同意書であった。

迩が理由を聞くと、駅のホームで煙草の副流煙を吸ってしまったからだという。迩は、そんな些細なことで胎児が汚染されることはないと主張するが、女が聞き入れることはなかった。しかし迩は、同意書を書くことを拒み続けた。そのために、こんな郊外に家まで買ったのだから。

そして言い争いの末、女は階段から飛び降りてしまうのだった…。

公平な情景

★★★☆☆
小学校の教室の一場面、先生は言う。
何より大事なのは公平性だ

その日から、そのクラスでは問題があったら、1人の生徒が公平に問題を調停し、解決することになる。

しかし先生の意向で、調停役は辺野古が指名された。そして給食で余ったデザートの分配の調停が続き、2回目の調停では、辺野古のヨーグルトが取られた。3つ余ったヨーグルトに2人が欲しいと言ったため、公平ではなくなるからという理由で…。

正義の場面

★★☆☆☆
息子夫婦と暮らしていた高齢のある男は、寒い冬に熱々の風呂に入るのが好きだった。その日も、窓を開けて熱い風呂に飛び込む。

何かいつもと違う感覚を感じた男は、自分が風呂に沈んでいることに気付く。しかも自分は、どうやらそれを上から見ているのだ。まるで幽体離脱のように。

しばらくして、嫁と息子が自分が沈んでいるのを見つけ、救命を始めたが助かりそうな気配はなかった…。

救出の幻影

★★☆☆☆
男は息子・福の部屋で日記を見つける。

あいつはやっぱり怪物だ。
偶然見つけた日記のその不穏さに、男は他のページも開いてみる。そこには、怪物について「気持ち悪い」、「仲良くできない」、「敵だ」などの文字が並んでいた。

男は、福が何か厄介ごとに巻き込まれているのかと考え、日記をじっくり読むことにするのだった…。

終章

★★☆☆☆
美咲とその母の秘密が明らかになる物語の終端。

感想

筒井康隆を思わせるような、ナンセンスとブラックユーモア溢れる作品。同系統の物語を多読している人間にとっては、退屈かもしれない。

筒井康隆との違いを挙げるとすれば、よりサイエンティフィックな表現が多い(ただし無意味に)、論理的一貫性が高い(ほぼ屁理屈だが)という点だろうか。
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