デフレの実相

日本経済新聞において、2012年5月28日から6月1日まで連載していた「デフレの実相」。

現在の不況の原因であり、バブル崩壊から少子高齢化やグローバル化の影響、政策の失敗などの様々な要因で発生しているデフレ。これを整理したのが本連載だが、原因にしても処方箋にしても論争があり、いかにこの問題が複雑かつ難しいかがわかる。


デフレとは

そのデフレの定義は、「物価の下落が2年以上続く状態」とのこと。これに景気の悪化が連鎖する場合は「デフレスパイラル」という。

一般に、短期のデフレは個人消費を刺激する。しかし長期のデフレでは、商品価格の下落が企業収益を圧迫し企業の投資や従業員の所得・雇用を下押しする。さらには、企業・個人の資産価値が目減りすることにより債務返済が滞り、金融機関の不良債権が膨らむ。

日本の実際はどうかというと、リーマンショック以前の何年かは良かったものの、バブル崩壊後から実質10年越しのデフレだという。さらには、バブル崩壊後から日本が持つ資産価値は1500兆円目減りしているらしい。


デフレの原因

デフレの主因についても論争があり、どれが最も有力なのかもわからない。

一つの意見として、恒常的な需要不足がある。つまり、作っても売れないのである。この原因としては、少子高齢化や社会保障の不備による国民の消費抑制がある。さらなる原因としては、賃金下落による内需の縮小がある。賃金下落は、雇用を守りがちな日本特有の問題らしい。しかし工業国である日本は、グローバリゼーションによるオフショアの進展にも影響を受けやすく、円高が続いているという事実もあり、これも賃金下落の圧力になっているだろう。

対する意見である供給側の要因を指摘する人も多いらしい。一つには、企業の生産性の低下が挙げられている。これは、ソフトバンク以外に新参の大企業が現われない、日本の構造的な問題からくるように思われる。もう一つには、金融の機能不全が挙げられている。それは、金融ビックバン前の金融機関の体たらくと、バブル崩壊による不良債権処理が長引いたことが要因だろう。

さらには、需要側と供給側の要因が相互に連関しているとも言われている。


デフレ研究と対策

しかし、デフレは今に始まったことではなく昔に何度も起こり、研究も進んでいる。その研究成果として、デフレ退治には金融緩和が有効というのが標準的な説である。

実際に、日銀はゼロ金利政策と70兆円の資金供給という方法で、これを実行している。

この日銀のやり方に対しては、緩和措置が足りないとの意見も多い。

しかし、金融緩和だけではその効果に限界があるという意見もある。その理由として、いくら日銀が資金を供給しても、銀行から企業に、そして個人に渡っていないという現実がある。

日銀は金融緩和により、銀行が企業などに金を貸しやすいように、銀行に金を大量に供給しているのであるが、銀行はこの金の多くを国債に投資している。つまり、銀行の、成長するビジネスに金を投資して産業発展に貢献するという、本来の仕事がうまくいってないことを意味している。この原因が銀行側にあるのか、産業側にあるのかはわからないが、新規ビジネスが育ちにくい日本の現状が、ここでも影響しているように思える。

そして、日銀の以上のような金融政策だけでデフレは脱却できないという議論の下、規制緩和や法人減税、FTAを通じた経済の底上げが必要で、そのために政府が今夏まとめる「日本再生戦略」は重要だとして、デフレの議論が締められている。
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