それをお金で買いますか―市場主義の限界 マイケル・サンデル (Michael J. Sandel)著

それをお金で買いますか――市場主義の限界それをお金で買いますか―市場主義の限界
(2012/05/16)
マイケル・サンデル、Michael J. Sandel 他
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あらゆるものがカネで価値を計られる世界。臓器や公共施設の命名権が売買され、カネで妊娠を代行する。それらは、貧者を搾取するという「公正さ」以上の「何か」を破壊しているのではないだろうか?

サンデル氏による、「市場主義」への問題提起。



贈り物を自ら選んだ物ではなくてカネにする。有名野球選手のサインをオークションにかける。排出権取引という名の下で地球を汚す権利を売買する。確かにこのような、様々な物や権利を商品にする「市場主義」は合理的だ。しかしこれらは、冷徹さを感じさせ、野球とファンの関係を変化させ、地球を汚す罪悪感を消す。マイケル・サンデルは問う、このような「商品化」は、人々が世界を築く礎である道徳を破壊しているのではないか。

本書では、お金で買うべきではないものやサービス、権利が存在すると主張する。それは、それらが貨幣に換算され売買されることによって、社会の「公正さ」が失われ、そして何より道徳や規範が破壊されるケースがあるからだ。

臓器売買や公立の病院での予約の売買(中国)などは、貧者が富者に搾取されたり、公共のサービスが金銭的に不平等であったりする「公正さ」が問題になるケースだ。日本でも、臓器移植をするために海外へ渡るケースが多く、同様の問題を抱えているし、アメリカでは行列に並ぶ商売が生まれ、ローマ教皇のミサ参加チケットのダフ行為まで起こっている。



しかし、サンデル氏がより問題視しているのは、あるものが「商品」に変わるときに起こり得る、道徳や規範が破壊されるケースだ。

売血で輸血用の血液をほぼ賄っているアメリカでは、売血が献血意欲の低下を招き、このことが市民の利他的な精神を衰えさせているという。また、臓器売買や売春、卵子・精子の売買では、人間そのものを商品にする。このような、商品化が我々の道徳観にどのように影響するか、良いものであるはずはなく、議論すべきことだろう。

「商品化」という行為により市場化されたものやサービスや権利は、最も高額な値段を付けた人の手に渡る。経済学者は、このような経済的効率化は「最大多数の最大幸福」を実現すると主張する。しかし、社会心理学の研究は、「商品化」が商品価値を変える場合があることを伝える。そのようなケースは「商品化」する前に考えられるべきで、その基準は道徳であるというのが、サンデル氏の趣旨だと思う。



私は、これを書店で流し読みしたときにハッとしました。合理性の名の下に、居心地の悪さを感じないように、免罪符を購入して、私たちは冷徹な活動をして生きているのではないかと。幸い、日本はアメリカほど市場主義化していませんが、それらを導入するに当たってどのような判断をしていくのかは問われるところです。日本の良き姿勢、「お天道様が見ている。」を忘れないようにしていきたいものです。

しかし、サンデル氏も述べているものの、一人一人異なるこの道徳という判断基準を収束させるのは難しい問題です。人の体を商品にする場合であっても、個人の選択肢が増えるのは良いことだという人もいるでしょう。排出権取引だって、全体の排出量を減らす良い方法として、鳴り物入りで導入されました。しかし、この過程で、私たちの人間や自然に対する心持はどうなったのか、じっくり考えていかねばなりません。
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