あなたの中の異常心理 幻冬舎新書 (2012/01/28) 岡田 尊司 ★★★★☆ 商品詳細を見る |
自殺や快楽殺人、子を虐待死させるなどの異常な心理が導く特別な行為も、完璧主義や悪戯のスリルや強すぎる責任感のような我々が普通に持つ感情や主義と根っこは同じ。このような観点から、「異常心理」へ導く人間の様々な主義・癖・心の機構が「異常心理」を経験した偉人達の人生の例示と共に記される。特にその偉人等の記述はすさまじく、一見に値する読み物になっている。
なぜ大学教授のような社会的地位もある人が、少女のスカートの中を覗いて捕まるのか。平素穏やかな普通の母親が我が子を虐待死させてしまうのか。
しかしこのような「異常心理」は、特別な人にだけ起こる特別な事件ではない。「正常」な人間だと考えている我々も、強いストレスや葛藤状況下では、不安定さを露呈し不可解な言動することがある。
本書では、そのような「異常心理」は誰もが抱えるものだという観点から、「異常心理」へ導く人間の様々な主義・癖・心の機構が例示される。
完璧主義は、成功の原動力にもなりうるが重篤な精神障害の危険もはらみ、多くの人が経験したであろう幼少期の悪戯のスリルや身近ないじめは、特別と思われがちな快楽殺人と心理的類似性を持つ。また、「敵をつくる心のメカニズム」としてのひがみ根性や支配欲、うそがつけないといったむしろポジティブに聞こえる性質でさえ病理に結びつきやすい。このような、「正常」な私達でさえ否定できない感情や性質が「異常心理」への入り口だという。
しかし、この本の最も興味深いコンテンツは、多彩な偉人達の精神的な病理と、原因となった出来事から「異常心理」に陥るまでの人物伝である。
両刀使いで完璧主義の三島由紀夫、親の死に目に妻と交わっていたという悔恨が禁欲主義へ導いたというガンジーの経歴や、嗜虐性(サディズム)の代名詞であるマルキ・ド・サド、死とエロティシズムを結びつけたジョルジュ・バタイユのトラウマ、ひがみ根性の権化であるドストエフスキー、幻聴や被害妄想に捕らわれていた夏目漱石、友人や知人の妻と姦通を繰り返したバートランド・ラッセル、バイロンやローマ皇帝ネロの近親相姦など「異常心理」を経験した偉人達の人生のすさまじさは一見に値する。