サムシングブルー 飛鳥井 千砂 著

サムシングブルー (集英社文庫)サムシングブルー
集英社文庫
(2012/06/26)
飛鳥井 千砂
★★☆☆☆
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恋人と別れた27歳の梨香は、一通の手紙を受け取る。それは結婚式の招待状で、高校時代の元恋人と一番の親友からだった。梨香にとってしこりを残したまま疎遠になった2人の結婚、それは恋人との別れと共に2重のショックを梨香に与える。打ちひしがれていた梨香の下に、青春時代を過ごした友人達から「2人の結婚を祝福して皆で贈り物をしよう」という連絡が入る。最もきらびやかだった青春時代の友人との再会、それは梨香にとっては居心地のわるいものであったが、懐かしいものでもあり、しこりを残した記憶を思い出し、考え直す機会でもあった。そんな過去に繋がる友人達との交流の中で、心揺り動かされながら自己の立ち位置を定めていく女性が描かれた、恋愛小説。

この物語の中には、読者を惹きつけるようなものは何もない。かといって、飽きることはなく、全てを平静を保ったまま読み終えることができる。つまりは暇つぶしのための本である。

とはいえ、色々とこの本や登場人物に思うところがあったので、それを以下でぶちまけています。



それは、この本の主人公梨香の人間としての薄っぺらさに辟易するということです。
物語は、梨香とその恋人である智久との別れで幕を開けますが、2人は
別れ話は、一ヶ月も前からはじまっていた。特に大きな理由があったわけじゃない。でも付き合いは初めの頃のように、ただ一緒にいるだけで楽しくて仕方ないなんてことはもうなくなっていた。
・・・中略・・・
会うのにも、会わないのにも、私たちは理由を必要とするようになっていた。だったら「もう別れたほうがいいんじゃないか」という話になったのだ。
というよくあるような形で離別を迎えます。そして梨香は、イラストレータである智久が残していった絵や食器や傘の思い出を反芻したり、智久が梨香に言った意味深い言葉を思い起こしたりしながらも、これらを良い思い出として消化しようと日々を送っていきます。

しかし私は、このような別れをした梨香の獣じみた精神性について、何故著者は気付かないのだろう、と思ってしまいました。

この本の中で、智久は28年間生きてきた人間としての、癖や情緒を含ませながら、梨香と接しています。一方梨香の中には、このような智久の言動に「カワイイ」とか「やさしい人だった」というような、どこまでも浅く薄っぺらい感情しか存在しません。挙句の果てに上記のような別れ方ですから、単に欲望の赴くままに男に寄り添い、人間としての高度な繋がりを持てないまま、飽きがきて別れたとしか思えません。

この本は、梨香の心の動きがかなり細かく描かれているので、その人物が薄い人間だということは残念なことです。



最後に、このような人間やこのような男女の関係が如何に下等で獣じみたものかという事実に直面し、軽いトラウマを自己に植え付けたいと思われる方は、トルストイの『クロイツェル・ソナタ』をお勧めします。


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