『ポアンカレ予想』の直感的理解と整理

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『ポアンカレ予想』
単連結な3次元閉多様体は3次元球面に同相である。
は何を意味しているのでしょうか。

「単連結な3次元閉多様体」とは、穴がなく(単連結)、境界がない(閉じている)、3次元の図形(3次元多様体)のことです。そして命題は、その性質(単連結で閉じている)を維持して、グニャグニャと形や大きさを変えれば、3次元球面になるということを言っています。



より理解を深めるために、「2次元閉多様体」を見てみましょう(「3次元閉多様体」は絵に書けないので)。

2次元球面2次元トーラス
【ウィキペディア:球面】【ウィキペディア:トーラス】

これらの2次元球面とトーラスは、共に「閉多様体」です。しかしトーラスには穴が空いているので、単連結ではありません。このトーラスにあるような穴がなく、かつ閉じた図形、つまり「単連結な2次元閉多様体」は、どんな形でもグニャグニャと形や大きさを変えれば2次元球面になるような気がしませんか?それを言葉にすれば
単連結な2次元閉多様体は2次元球面に同相である。
です。実際、この命題は真です。『ポアンカレ予想』は、これが「単連結な3次元閉多様体」のときも同様だろうということを言っているのです。

しかし、「3次元閉多様体」や「3次元球面」とはどんなものなのでしょうか?

これを理解するため、まずは2次元球面を考えます。それは例えば、地球の表面のみの世界です。その世界には球の内部も宇宙も無く、表面にへばり付いてる2次元の存在にとっては高さというものが存在しません。そして、2次元の存在は、その球面をどんなに移動しても端(境界)を見つけることはできません。(この端を見つけられないことが境界がない、つまり閉じているということです)

しかし、この世界に地球の内部や宇宙、つまり高さが認知できる3次元の存在が現れたらどうでしょう。そのような3次元の存在(我々)にとっては、その2次元の存在は球面上をぐるぐる回ってるだけだということが簡単にわかります。

さて、同様のことを3次元空間で考えます。もし我々が住んでいる宇宙が3次元球面であるなら(我々が住む3次元空間が2次元球面のように閉じていると考えてください)、宇宙をどんなに移動しても端はなく、一つの方向にひたすら進んでも元の位置に戻ってきます。しかし2次元球面の議論と同様に、4次元の存在にとっては、我々3次元の存在が端を探しても見つからないことは当たり前のことです。

これが3次元球面ですが、「3次元閉多様体」を想像するのは簡単ではありません。しかし、『ポアンカレ予想』の2次元版における自明性を考えると、3次元でもそうなるんじゃないかな、と思います。

しかし、ペレリマンが証明したことはもっと一般的なものです。それは、『幾何化予想』と呼ばれる命題で
コンパクト3次元多様体は、幾何構造を持つ8つの部分多様体に分解される
と述べることができます。
これは、どのような3次元の閉多様体(「コンパクト」は「閉」と考えても問題はありません)であっても、それは3次元球面や3次元トーラスなど含む8つの図形に分解できる、と言っています。

そしてこの8つ図形の中で単連結なのは、3次元球面しかありません。ということで、単連結な3次元の閉多様体は自動的に3次元球面と同相となってしまうわけです。



では、『ポアンカレ予想』、延いては『幾何化予想』によって、実際に宇宙の形がわかったかというと、まだわかってはいません。【参照:100年の難問はなぜ解けたのか―天才数学者の光と影 (新潮文庫)

ペレリマンは、
単連結な3次元閉多様体は3次元球面に同相である。
という命題が真であることを示しましたが、これはもし宇宙の形が「単連結な3次元閉多様体」であったなら、我々が「3次元球面」の性質を使って、宇宙が「単連結な3次元閉多様体」であることを原理的には確かめることができる、と言っているに過ぎません。

そして、この「3次元球面」の性質というのを利用して確かめる方法というのが
宇宙の中の任意の一点から長いロープを結んだロケットが宇宙を一周して戻ってきて、ロープの両端を引っ張ってロープを全て回収する。【ウィキペディア:ポアンカレ予想
という方法です。このように、ロープを全て回収することができるような性質を持っているのが「3次元球面」で、「単連結な3次元閉多様体が3次元球面と同相である」ということは、「単連結な3次元閉多様体」にもこの性質があるということです。

しかし、宇宙が単連結なのかも、閉多様体なのかも、共に決着は着いていませんし、これは物理学者がする仕事です。

以上、『ポアンカレ予想』の直感的理解と整理でしたが、ペレリマンの証明については全く言及していません。我こそはという方は、以下の原論文を参照していただければと思います。

The entropy formula for the Ricci flow and its geometric applications, 2002
Ricci flow with surgery on three-manifolds, 2003
Finite extinction time for the solutions to the Ricci flow on certain three-manifolds, 2003
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