池上彰の宗教がわかれば世界が見える 池上 彰 著

池上彰の宗教がわかれば世界が見える (文春新書) 池上彰の宗教がわかれば世界が見える
文春新書
(2011/07)
池上 彰
★★★★☆
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ジャーナリスト池上彰氏と7人の論者、島田裕巳釈徹宗高橋卓志山形孝夫安蘇谷正彦飯塚正人養老孟司が、宗教について語った対談形式の本。

現代日本の既存・新興宗教の動向や宗教観、仏教・キリスト教・ユダヤ教・神道・イスラム教の基礎的知識から世界・日本での潮流、そして養老孟子氏による身も蓋もない結論まで、話題は広範にわたる。

内容は極めてわかりやすく、各既存宗教の歴史から現代の状況が概観できる。また一級の宗教論者による分析や、池上氏による独自の視点は、秀逸な納得と気づきを与えてくれる。

島田裕巳:2010年に発売した『葬式は、要らない』 (幻冬舎新書)などの著作がある宗教学者。地下鉄サリン事件発生当時にオウム真理教を養護して批判、中傷を受けたことでも有名。【ウィキペディア:島田裕巳

釈徹宗:浄土真宗本願寺派如来寺住職、相愛大学人文学部教授。【ウィキペディア:釈徹宗

高橋卓志:臨済宗の僧侶、松本神宮寺住職。その他、戦没者遺骨収集事業や日本チェルノブイリ連帯基金の設立に携わる。ウィキペディア:高橋卓志

山形孝夫:宗教人類学者、宮城学院女子大学名誉教授。コプト教の修道院を記録した『砂漠の修道院』では日本エッセイストクラブ賞を受賞した。【ウィキペディア:山形孝夫

安蘇谷正彦:神道学者で一瓶塚稲荷神社宮司。國學院大學元学長でもある。【ウィキペディア:安蘇谷正彦

飯塚正人:宗教学者。専門はイスラーム学、中東地域研究。【ウィキペディア:飯塚正人

養老孟司:解剖学者。東京大学名誉教授。



ジャーナリストの視点から語られる、宗教がいかに世界の政治・経済を動かし、膠着させているかの逸話は極めて興味深く、アメリカ大統領選を左右するキリスト教原理主義団体や、イスラム教国における「選挙をすると原理主義が圧倒的な勢力を得る」傾向、ヒンドゥー教におけるカースト制度のワークシェアリングとしての役割など、私達の世界情勢の見方を広げてくれる話題が満載である。

現代日本の宗教や宗教観にも新しい観点を与えてくれる。島田裕己氏は、日本人には神道と仏教が深く根づいていて、「これだけ宗教が自然に根付いている国は、かえって珍しいんじゃないですかねぇ」と語るが、確かに「生まれ変わったら何になりたい」などと、自然に話してしまう日本人を考えるとうなづける。また、オウム真理教などの新興宗教についても語られるが、オウムに深く関わった島田氏が、この現象をきちんと分析し終えていないことは、学者として怠慢である気がする。

既存宗教の歴史や教義については、体系的に学べるわけではないけど、現在の世界を理解する上で重要な部分はきちんと語られている。



対談における最後の話者は、養老先生。養老先生の本を読み漁っている人には、新しいことはないけれど、一部分だけ引用します。
今回の地震でもわかる通り、死は究極の不条理です。(p.249)
日本の庶民は、「死んだらおしめえよ」とみんなわかってたんじゃないんですか。(p.250)
最近では、「自分探し」という言葉がありましたが、それは自分があるということが前提です。そんなものがあるのかっていうことですよ。(p.251)
死を考える、ということは・・・中略・・・でも幸いなことに死んでしまえば、もうあれこれ悩む必要はありません(笑)。(p.262)
養老先生は、上記ようなことを繰り返し様々な著作で述べていますが、これも「それは自分があるということが前提です。そんなものがあるのかっていうことですよ。」という言説が、文学的な意味ではなく科学的な事実であることを受け入れられない人が多いからでしょう。

養老先生の「それは自分があるということが前提です。そんなものがあるのかっていうことですよ。」っていう言説を本当の意味で理解したい人は以下がおすすめ。


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