セックスレスな女たち 衿野 未矢 著

セックスレスな女たち (祥伝社黄金文庫)セックスレスな女たち
祥伝社黄金文庫
(2012/07/25)
衿野 未矢
★★★★☆
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既婚者の40.8%が「レス」の時代、日本の夫婦は様々な理由で「レス」に陥っていく。その理由は、夫婦のプライベートな空間が持てないなどの住環境、残業・長時間通勤などの労働環境、「子供が生まれたら、もうセックスは卒業しましょう」という文化的雰囲気など多数存在する。

さらには、夫婦間の力関係におけるバランスゲームは、セックスをその一つの武器にしてしまい、セックスレスを長期化させる原因になる。また、男女間のセックスに対する考え方の不一致や男女間で異なるオーガズムの性質は、セックスレスのきっかけともなる。

多数のインタビューを下に、これらの原因とその解決策を提示する本書は、セックスを維持するだけでなく、パートナーと良い関係を築くために男女ともに読んでおくべき良書と言える。

:セックスレスは、「特別な事情が認められないにもかかわらず、カップルの合意した性交あるいはセクシャル・コンタクト(キスやオーラルセックス、ペッティング、裸での同衾など)が一ヶ月以上なく、その後も長期にわたることが予想された場合」と定義される。【日本性科学学会

住環境や労働環境からセックスレスに

日本におけるセックスレスは様々な要因があり、その根は深い。

その一つとして、住環境が挙げられる。子供のいる夫婦にとって、住居が狭くプライベートな空間がもてないことは致命的だし、さらに夫婦の両親が近辺にいない地方出身者同士では、子供を預けることもできない。

次に挙げられるのは労働環境で、長時間残業、残業が禁止されているための仕事の持ち帰り、通勤時間の長さなどがあり、おおよそ週49時間労働がセックスレスの境と言われている。

これらの2つの原因は、セックスが「恵まれた人たちだけに許される贅沢」になってしまったことを反映している。

文化的圧力からセックスレスに

また、日本におけるセックスに対する文化的雰囲気の影響も強い。それは、妻たちの「セックスレスが自然」、「日本の社会に身を任せていると、自然にセックスレスの方向に進んでいく気がする」、「子供が生まれたら、もうセックスは卒業しましょう」という声に表れている。

性教育の不足からセックスレスに

世の男性たちには耳の痛い、「痛いセックスをする男」のセックスが「レス」に導くことも多々ある。それは、
SMではなく、「こうすれば女性が喜ぶはず」だと誤解していて、サービスのつもりで、グリグリと力を込めて摩擦したり、つまんだりする男性
のことだ。これらの男性は、なかなか「ノー」と言えない日本の国柄により修正されない。それは、女性が言わないというだけでなく、「痛い」という日本語の拒絶感の強さや、互いの絶頂感の違いをいかに伝えるかなど、セックスの感覚を伝える日本語の未成熟さから来るという。

そして、このような強い言葉によりセックスを避ける男も出現する。それらの男性は、
「そろそろ終わって欲しいんだけど」、「今夜はこれでおしまい、お相手するのに疲れちゃった。」
と言われ、
「結婚以来、何年も続けてきたこと、すべてが的外れだったと宣言された」、「セックスは重要なことだからと、疲れていても頑張って、週に一度は維持するようしてきました。それは無意味どころか、妻にとっては迷惑だったのかと。イイとかイクとか言っていたのは、すべて演技だったのかと。ものすごい衝撃でした。」
と、強い拒絶感を受け恐怖感を感じるようになる。

様々な理由やきっかけによって陥るセックスレスは、お互いの無関心を助長したりギクシャクした関係に導いたりする。と同時に、「セックスしなくても幸せです!」という女性、「気持ち悪いだけで、夫を嫌っているわけじゃない」という女性もいる。しかし、著者はこれらの女性がセックスに対する無関心を装いながらも、またセックスのある生活を望んでいると感じ取っている。

セックスレスにならないために

さらに著者は、セックスレスから立ち直った夫婦たちの逸話を聞き、「惚気話を聞いているような、甘い華やぎを感じ」、「セックスとは、とてもいいものなのだなあ」と実感したという。

そして最後に、セックスレスにならないために「身体の接触を維持する」ことや、セックスへの不満などの「微妙な問題は話し合わず」、身体の接触や愛情表現で解決を図ること、「寝室に夫婦のバランスゲームを持ち込まない」ことなどを挙げる。

さらに、セックスレスになってしまったら、「いきなりセックスを求めない」で、言葉や体の接触によって少しづつ距離を縮めることが大切だという。

感想

とても考えさせられる、良い本でした。特に「寝室に夫婦のバランスゲームを持ち込まない」などは、とても共感できる内容で、セックスを駆け引きに使うことは男女間の付き合いの中でよくある普遍的なことだと思います。

また、「微妙な問題は話し合わない」という条項には、ジェンダーに関する深い真理が表れているように思えます。それは結局、男女は分かり合う事はできないということです。「昔の男」に固執する男の価値観を、女性は絶対にわからないし、10代前半から生理と付き合ってきた女性の考え方の構造は男性に理解することはできません。

しかし人類の男女は、百万年以上もの期間を共に歩んできたわけですから、その営為を成り立たせるものが人間には備わっているはずです。それをよく表しているのが、「身体の接触を維持する」などで、身体の接触による幸福感やそれによって起こる信頼感を上手に利用して、パートナーとの生活をを円滑にしていくことが大切だと思います。

追記:

しかしもちろん、「セックスレスの何が悪いのか?」という意見もあると思います。日本という文化圏の中で、「子供が生まれたら、もうセックスは卒業しましょう」という風潮があり、それはそれでうまくやってきたような気がします。セックスレスという言葉自体も元々欧米からやってきたもので、そこには欧米文化の視点で日本を見たときの問題であり、それが導入される前には日本にそのような問題はなかったとも言えるかも知れません。

しかし、このような「禁欲的」な日本の姿は、明治以降の限られた年代だけだという議論もあります。実際、明治政府による近代化以前の日本は性に対して開放的であったらしいのです。【夜這いの民俗学・夜這いの性愛論(赤松 啓介)】

まあ、こういうことは決着をつけるべきことではないかもしれませんが、男女は肌を合わせることで(生物学的に)親密感が生まれることは事実なので、これを利用することは夫婦仲を円滑にする一つの方策であることは確かです。

関連リンク

夜這いの民俗学・夜這いの性愛論
著者:赤松啓介
出版:筑摩書房
発行:2004/6/9
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