怖い話 福澤 徹三 著

怖い話 (幻冬舎文庫)怖い話
幻冬舎文庫
(2011/08/04)
福澤 徹三
★★★☆☆
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怪奇作家福澤徹三による「怖い」話を集めたエッセイ集。ここでの「怖い」は、心霊的なものや都市伝説的なものに限らない。著者の独断により選ばれた怖い映画・本・絵画が批評され、著者の実体験に基づいた怖い会社・病院・バイトが語られる。日雇いなどのアンダーグラウンドな世界に生きてきた著者だけあって、それらの記述はリアル。さらに、怖い食べもの・虫・料理店・広告・刑罰などのアングラな雑学を紹介し、社会問題化しているような自殺の問題などを怪奇作家とは思えない現実的な思考でぶった切る。ちなみに表紙は、ベクシンスキーの「三回見たら死ぬ」といういわくつきの絵である。

基本、悪趣味な話題のオンパレードなので、この手の話が嫌いな人は受け付けないかもしれない。しかし波乱の半生をしぶとく生きてきた著者の、現実に対する冷静な意見は極めて納得感がある。また、都市伝説やアングラな話題の真偽に中立の立場をとっているのも好感がもてるが、ラストで心霊現象を物理学の不可思議さに含めてしまおうというのはいただけない。心霊関係の話題は、脳科学や認識論と絡めるのが現代における「考える人」の内での潮流だろう。

また、この手の話題が好きな人にとっては新しい話題は少ないかもしれない。しかし、本作では著者の様々な意見(フラストレーション?)もかなり吐露されているので、「怪奇作家の考え方はどのようなものか?」という視点でこのようなエッセイを見るのも面白いかもしれない。京極夏彦や平山夢明ほどではないものの、本作の著者もかなり冷徹で合理的な考えを持っているように見え、怪奇作家であるということとの背反性が興味深い。



本書の「怖い虫」では、オオミズアオという蛾が紹介されていた。その成虫の前翅長は80-120mmほどと巨大だ。そして日本全国に生息域を持ち、サクラの葉を食べるため、都心のビル街の街路樹などでも見かけることがあるという。【ウィキペディア:オオミズアオ

その成虫の姿は、奇妙だが幻想的でさえある。【(虫嫌いは閲覧注意幼虫図鑑:オオミズアオ
子供の頃は虫と戯れていたのに、めっきりその機会も無くなって、今は虫に対する恐怖心しかないのは寂しい限り。

そういえば先日、家に手のひらほどもある巨大な蜘蛛がでた。おそらくアシダカグモで、この蜘蛛はゴキブリなどを捕食する益虫である【ウィキペディア:アシダカグモ】。

昔、「蜘蛛は人間の味方で、もし蜘蛛が存在しなかったら、疫病の蔓延や穀物の収量低下(蜘蛛は害虫を捕食する)により人類はこれほど繁栄しなかったであろう」と大仰に書かれた科学記事を読んだことがあったのでほっといたが、あのでかさはやはり怖い。ゴキブリを食っているのを想像するだけで身の毛もよだつが、ねずみさえ捕食することがあるという。

話は変わって、本書の「怖い絵」で紹介されていた鴨居玲の作品群には、心を引かれるものがあった。
鴨居玲は、社会や人間の闇を描いた画家であり、度重なる自殺未遂の末に排ガスにより自死している。享年57歳(1985年)であった。【ウィキペディア:鴨居玲

インターネットでは石川県立美術館のデータベースから多くの絵を見ることが出来る。【石川県立美術館:所蔵品データベース


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