厠の怪 便所怪談競作集 編集:東雅夫 著者:京極夏彦、平山夢明、福澤徹三、飴村行 他 出版:MF文庫ダ・ヴィンチ 発行:2010/04/21 評価:★★★☆☆ Amazonで詳細を見る |
便所にまつわる怪談8編とエッセイ2編から成る、ダーティーな書物。
京極夏彦、平山夢明、飴村行といった豪華な執筆陣を揃えた短編集ながらもお題はトイレ、便所、糞尿である。
物語のスペクトルとしては、不思議だが怖くない話から、人間の狂気に迫った非怪談的恐怖話まで様々。
特に、飴村行の『糜爛性の楽園』と長島槇子の『あーぶくたった―わらべうた考』における人間の残酷さの表現は極まり過ぎてトラウマものである。
厠の怪
便所の神様 京極夏彦
★★★☆☆直視したくない現実を抱える、ある少年の内観を追ったミステリアスな物語。
オチはシュール。
きちがい便所 平山夢明
★★★☆☆廊下のどんつきの壁に塗り固められた便所、そしてその便槽に徐々に増えていく溜り…。
徐々に狂気に堕ちていく家族の、ダーティーな『シャイニング』風味のモダンホラー。
よくできた話ですが、狂気を描く部分で、どこかで聞いたような台詞が出てきたのにガックリきてしまいました。
シャイニング:スタンリー・キューブリックのホラー映画。猛吹雪に閉ざされたホテルで、小説家志望の男が狂気にとらわれ、自身の家族を惨殺していく物語。徐々に男のピントがずれていく様子が本作と似ている気がする。【ウィキペディア:シャイニング(映画)】
盆の厠 福澤徹三
★★☆☆☆祖先の霊を迎え祀る盆に、少年・真一は父方の実家に帰省する。
従姉の麻耶は、真一にとって最も身近な存在だったが、中学2年となった麻耶は真一の相手をしてくれない。
2日目の夜、離れの厠で用を足していた真一は、窓の向こうに抱き合う男女を見てしまう。真一は、その女が解こうとしていた浴衣が麻耶の着ている浴衣に似ているのを認め、胸の奥にざわつきを感じ始める…。
少年の心に芽生え始めるエロスを描いた部分は悪くないんですが、怪談としては凡庸です。
糜爛性の楽園 飴村行
★★★★☆昭和初期のある貧しい小作農家の話。
人間の尊厳が根こそぎ否定されたような極限に酷い話で、これが沸き立ちのない凪いだ筆致で綴られるのがまた恐ろしい。
トイレ文化博物館のさんざめく怪異 黒史郎
★★★☆☆母が残虐に殺害されるのを便所に隠れ聞いていた少年、少年は大人になり、古今東西のいわく付きの便所を集めた博物館で働くことになるが…。
展示された各便所の伝承がなかなか面白い。
あーぶくたった―わらべうた考 長島槇子
★★★★☆「あぶくたった 煮えたった 煮えたか どうだか 食べてみよう むしゃ むしゃ むしゃ まだ 煮えない」という有名な童歌の由来を、飢饉時のある寒村を舞台に描いた作品。
この話が「あぶくたった」の由来として適切か、若しくはそもそもホラーなのか、という疑問はある。しかし、極限状況における畜生の如き人間に戦慄を覚え、またこれこそが、敎育を受けていない追い詰められた人間のリアルな姿なのだ、と感じさせるほどのリアリティがあった。
隠処 水沫流人
★★☆☆☆少年は、地域の祭りにあった「お化け屋敷」で、奇妙な手に足を掴まれる。それが、狂いズレていく日常の始まりだった…。
よくわかりませんでした。もしかしたら、わからなさによって恐怖感を煽っているのかもしれませんが、なんとも言えません。
縁切り厠 岡部えつ
★★★☆☆理世の母方の家には、離れの便所があった。小さい頃から使用を禁じられた便所だったが、理世が中学の時、母親が一晩その便所に籠もった。
それからおおよそ20年後、今度は理世が便所に籠る番になる…。
怪談らしい怪談と、少し道を間違えたある女の物語です。
学校の便所の怪談 松谷みよ子
★★☆☆☆日本に伝わる便所にまつわる怪談を紹介。『あかずの便所』、『時計泥棒』、『赤い紙・青い紙』、『白い手・赤い手』、『赤い舌・青い舌』、『赤いはんてん・マント・手袋』、『三番目の花子さん』、『ムラサキババア』、『青坊主』、『血がしたたる』、『ノックが聞こえる』の11怪談。
厠の乙女―便所怪談の系譜 東雅夫
★★☆☆☆便所怪談の先駆的作品などを紹介したエッセイ。
ここで紹介されている、高橋克彦著『大好きな姉』にあるような、望まない赤子の捨て場所としての便壺。それは別に怪奇でも何でもないが、その映像や捨てる女の心を想像すると怖い。
関連リンク
シャイニング (1980/05/23) 監督:Stanley Kubrick 原作:Stephen King 出演:Jack Nicholson 時間:119分 Amazonで詳細を見る |
幻少女 著者:高橋克彦 出版:角川文庫 発行:2002/12/13 Amazonで詳細を見る ※『大好きな姉』収録作品 |