非道徳教養講座 平山夢明 著

非道徳教養講座
著者:平山夢明
出版:光文社
発行:2011/01/20
評価:★★★☆☆
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『非道徳教養講座』は、謎の文芸雑誌『本が好き』で連載していたエッセイ。

人が死ぬ話と小学生レベルのシモネタが大好物なホラー小説家、平山夢明による結構真面目な女性のための自己防衛訓話。

非道徳教養講座

第1回 賢い男の捨て方

男は本来、2メートル弱の危険な生物だ。このことは、同じ大きさのネズミやゴキブリが目の前に表れたときの恐ろしさを思えば明らかだろう。

あなた達はそんな生物と普段、何気なく生活しているのだ。ゆえに、別れ話は安全が図れる場所で切り出さなくてはならない。

また、別れ際にヤルのはご法度だ。種を仕込まれる可能性がある。

などの男と別れるときの注意点、及びテクニックを伝授。

第2回 賢い親の裏切り方

自分らしく生きるための親の裏切り方を伝授。

まずは、親による
<子の幸せを願う>という宗教とも信念とも言えない不気味な脅迫
によって幸せの形を押し付けられていないか。または、
他者・もしくは世間に迷惑を掛けてはならないなどという貧者の論理
により、きちんとした人間にならないといけないなどと洗脳されていないか。

まずは、自分を見直し、自己を固めることが必要と平山は説く。

第3回 賢い友の裏切り方

友人関係のフェードアウトの仕方を伝授。

友人関係のほとんどは、介護する側とされる側、隷属する側と支配する側に陥ってしまう無用なもの。真の友人は腕の数だけいれば十分と平山は説く。

また、平山に言わせると
人間とは獣です。欲望は果てしなく、嗜好は歪で、貪欲です。
とのこと。

第4回 賢い嘘のつき方

まず、嘘を
上は社会経済、下は家族関係まで<嘘>なくして健常な状態はなりたたないということであり、<嘘>は神が許したもうた人間の権利であり、人間が人間であるところの拠り所でもあるわけです。
と受け入れ、嘘を三つに分類。

生活に浸透した緩衝材としての「白い嘘」、破壊や死に至る「黒い嘘」、そして状況によって黒にも白にも変わりうる「灰色の嘘」である。

しかし、一般人にとっては「自分への嘘」が一番危険だと平山は説く。

第5回 賢い恩の売り方

恩と感謝は揮発性が高いので、恩を周到に着せることが重要と平山は言う。

まず、自分から手を挙げるのは言語道断で、直接頼まれるの待つ。いよいよ、頼み事をされたら、困った顔をしつつ自分も忙しいポーズを取った上で、十分に時間を稼ぐこと。十分に「恩を熟成」させたところで、やっと願いを聞いてやる。

すれば、恩は相手の魂にこびりつき、自分が困った時も頼み事をし易いと平山は語る。

第6回 賢いわがままの通し方

初めに、日本人は農耕民族で他人と協力しなければ生きていけなかったという文化背景から、わがままを通すこと、つまり他人に迷惑をかけることの難しさが語られる。

次に、わがままを通すための周囲に自分を周知しておくことの重要性(時間にルーズであるなら、普段からルーズさを小出しにするなど)を、長々しい青春物語を通して説明する。

第7回 賢い自分の壊れ方

ここでいう「壊れ方」は、周囲との関係性や、他人や自分の立ち位置を破壊する感情的暴発を意味する。

そして、うまい「壊れ方」として、周囲を味方にする。つまり、あなたが虐げられているような場面を周囲に見せることで、「何故だろう?なんであんなに我慢しているんだろう……」という空気を作り上げることが重要とのこと。

そんな十分なタメを作った上で、「冗談じゃありませんよ!」と感情を爆発させ、周囲の共感と共に、あなたに害のある人間を陥れることが、賢い自分の壊れ方だと平山は説く。

第8回 賢い失望のさせ方

他人の期待を裏切った時に発生するこの失望というもの。平山は、この失望をうまくコントロールすることが重要と説く。

それにはまず
人は期待に応えた相手を特別視してくれる
なんてことは欺瞞であり、
人の期待に応えることは善行である
と考えることが極めて不経済だと認識すべきとのこと。

第9回 賢い盆への返し方

仲直りの仕方のお話。基本自分から謝るなという事と、言い合いになったときは姜尚中的声色で話せ、的なことが記述。

第10回 賢い暮らしのタカり方

物品のタカりのような上級者向けではない、食事などに限定したタカり初級講座。

特定の人物に奢られ続けていると、何かを返さなくてはという心理状態になってしまい、気づけばベッドの中というのはよくあること。

そうならないために、食事だけであっても、付き合ってやってるというアピールをすることが必要。

また奢るような人間は、目的があるか自己満足でやってることだから、自慰行為に付き合ってやってる位の気持ちでいることが重要とのこと。

第11回 賢い会社の使い方

自分が会社の中で幹部レベルの地位にいない場合、搾取されているだけなので、全く頑張る必要はなく、「被雇用者」から「陰性搾取者」に変貌せよと平山は説く。

仕事は無難に、経費は使い倒し、休みは取れるだけ取りまくるべきで、むしろこういう社員の方が嫉妬の対象などにならず、首になったりはしないと平山は語る。

第12回 賢いスッピンの晒し方

まず、メークアップつまり装いは、「相手に対する攻撃」であり
身だしなみ、礼儀、清潔感の具現化
などではないと語られる。

そして、実際人は「美人に出会うと圧倒され」、「脳がパラライズ」するにも関わらず、このことを「麻痺とは言わず感動という負け惜しみ的言い換えで自己防衛」すると平山は語る。

スッピンの晒し方については省略。本を買って読んでみて下さい。

第13回 賢い占いの信じ方

占いは科学ではなく主観であり、「言いようによって中身が変化」するもの。

ゆえに占いは、あくまで気分転換や自分を勇気づけるツール的なもので、深みはまってしまう人は気をつけるべしというお話。

第14回 賢い子どもの育て方

最初に語られるのは「自分育て」。

そのためにまず、自分が何者かを見出すことが必要で、醜いヘドロみたいな人間存在が見いだせたら、それが正解。そして、そこから自分のやりたいことを作り上げていくべしと平山は語る。

次に語られるのは「カレ育て」。

これは、直したい所を全部直そうとするのではなく、一つに絞ることが重要とのこと。すれば、他の部分も矯正されていくと平山は語る。

そして「子育て」については、子供は予測がつかないものだから矯正しようとしても無駄。とにかく観察して、忠告のみに徹するのが吉と平山は説く。

第15回 賢い結婚の咲かせ方

結婚は契約だとか、専業主婦になっても、母になっても、自分は自分であるという自立心を忘れないこと、などのためになるいい話。

感想

平山夢明の書くものとはとても思えないお固い筆致で綴られる本作は、ざっくり言うと、周りの人間は欲望の塊かイカれているかどちらかなので気を付けろっていう話です。

とは言え、おおよそマトモな話なので、どなたでも納得できると思います。しかし、平山さんの書くものの割にはおとなしめのお話です。

また本書へは、怪奇漫画家・児嶋都が漫画の挿絵を提供しています。その作風は、チャーミングな楳図かずおといった感じですが、その内容とあまり関係ない漫画もなかなか味わい深いです。

児嶋都:綾辻行人作品の漫画化などを手がけているホラー漫画家。【ウィキペディア:児嶋都

楳図かずお:『漂流教室』や『まことちゃん』などで有名な漫画家。『漂流教室』も確かに傑作だが、『神の左手悪魔の右手』における理不尽な殺戮は、幼少期に読めば人生を変えるほどトラウマティック。

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